過去拍手文。+4+ 甘くて甘い、それでいて甘くそれだけで。





one,新婚



入居前に必要なものをお買い物☆

その時の一場面。



「あ、寝具も忘れちゃいけませんよね!」

「っていうかそれって結構重要……」

「はい?」

「いや、」



決してやましい理由で言ったわけではない。
決してないのだが、勘違いされるのは苦しい。
ので、引っ込めた。



「ベッドですかね、やっぱり。それとも歩さん、敷布団の方がいいですか?」



ナニするのにですか?(結局のところやましいところはある。



「………ベッド」

「あ、やっぱり。じゃあそれで――――」

「布団は敷くのに時間があるが、ベッドは迷う暇もないから」

「…………………」








他人のフリをされました。









+









two,さよなら



「さよなら、する?」

「は、」



何かが割れた。



「な、に……」

「別れるの?」

「……………はぁ、」



見放すのなら、そうしなさい。

怖くはないわ真実ではないから。

本当よ。

怖くなんか、ない、よ。

傷付いてなんかいないってば。



気にしないで、



「嘘泣き、ですから」



「……嘘つき」



呆れた目で見ないで。







優しい目で見ないで。










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three,未来



幼顔の、まだ新婚の若奥様が憂鬱そうに、泡のように吐き出したのは、



「皺皺のおばあちゃんになっても、愛してくれますかね、
おじいちゃんになった鳴海さんは」



なんていう、心配事。



「………は?」

「だって年上フェチとは言っても守備範囲はそう広くないでしょう」



何を言うんだ・マイハニー。



「若い子好きになっちゃったり、ね」



それも何をそんな深刻そうに。



「………」



信用ないなぁ。



「ずっとすきだよ」

「、」



そんな目見開くなよ。



「………す、き、って、言いました?今」



聞きなおすなよ。



「若い子?」

「なんでだ」



誤解すんなよ。



「私?」

「そう」

「好き?」

「多分」

「愛してる?」

「………うん」



可愛く笑う自慢の奥さん。



「可愛いおばあちゃんになりますね」



何年経とうと俺には綺麗に見えるよ。









+









four,暁



マジカルアワー。

真っ暗な部屋に生半可な色を落とした。

ベッドに広がるストライプ。

ブラインドの影。

目元に当たり疎ましい。



寝返りを打てば愛しい人に出会い、彼女に自分の影が落ちる。





「……………」





この位置、いいかも知れない。





「ん………」





そっと薄く開く瞼。





「まだ、寝てていい」





彼女は欠伸を噛み殺し、頷いて、腕を伸ばしてきた。





「、」





首に回された腕がキュッと抱きついてきて、
グッと距離が縮まる。





「……ちゃんと抱きしめてください」

「………はいはい」





髪を撫でる。

隙間なく抱きしめて布団を被りなおす。





「………ごめんな」





耳元で囁こうとも、彼女は俺の腕の中にて夢の中。



唇には届かないので、首を少し伸ばし額にキスをした。










+









five,捏造



泣きじゃくる私を見下ろし、彼は言った。




「好きって言えよ」

「……は?」



なんで今更、好きなんて?



「そしたら、偽者だってなんだって許せるから」



なんて愚かな神、なんだろうか。

そんな穏やかな顔して、
そんな簡単な事で私を許すの?



「………鳴海、さん」

「うん」

「私は――――」



許すの?



「あなたが、大嫌いです」



許されたいんじゃない。









忘れないでほしいだけ。










+









six,あいあい。



私のお気に入りのソファ。

あなたが座り、私が座る。

あなたは気紛れに腰を抱いては今か今かと好機を伺っている。

私はそこから百数える。

百一回目にはあなたの方へゆるりと倒れ。

その肩にぜんぶぜんぶ預けてしまう。

彼の唇からの小さな笑い声を聞いて。

彼の唇の隙間からの愛の言葉を聴いて。

私は小さく毒を吐く。

けれどそれごと呑まれてしまう。

熱い熱い唇の中、攫われた言葉は温度を上げて、繰り返して。

目に涙が溜まり始めた頃にあなたはボタンを一個外す。

私はそこからまた百を数える。

百一回目にはもう何も私達を隔てるものがない。

あるとすればこの厚い皮膚のみで。

彼の些細な変化に気付くこの瞬間。

少しの動作で跳ね上がる心臓。

溶けていく。



壊れちゃいそうよ。



愛情の増減?

右肩上がり。

少しずつ格好よくなる。

いっぱい・いっぱい・好きになる。

最後にした口付けはとても軽い。

彼は私を一度抱きしめて、私を起こした。



眩暈がした。



彼はごめんと言った。



私は笑った。



我慢できない、此の人が、けっこうすきだから。










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seven,部屋とYシャツと私



お願いがあるのよ・あなたの苗字になるわたし
大事に思うのならば・ちゃんと聞いてほしい



「この歌だいっすきなんですけど」

「へぇ」

「可愛いですよねー」

「歌って?」

「は?」

「歌ってみて」

「…………」

「なんで照れるんだ。いつも勝手に口ずさんでるくせに」

「……言われると歌えません」

「歌って欲しいなぁ」

「……じゃあちょっとだけ」



こほん、と咳払いして、歌う。



「あなた浮気したら うちでの食事に気をつけて
私は知恵をしぼって 毒入りスープで一緒にいこう」

「なんでわざわざそこなんだ」

「可愛いじゃないですか」










+








eight,フライヤ


朝のケンカ。遅くなった帰宅時間。

どう考えても不利だが乗り込む、いざ篭城。



キィッ。軋むドア。



その音に彼女は全く反応を見せず、
窓際でブランケットを纏い、夜空をひたすら眺めている。



「……」



横顔が丁度見えるところに位置する椅子に腰掛けた。
こっち向かないかなぁ、と頬杖を付いて待った。

横顔ってあんま見ないな。

見とれていたわけじゃない。
でももう少しこのままでいいかもと思った。



けど、彼女の眉間に皺がよった気がしたので頬杖をやめた。

で、腕を広げてみた。



「……何してるんですか」

「仲直りしようかなぁ、と」

「バカですね」



あう。
地味に痛いダメージを受けつつ行き所のない手を引っ込めた。



バタリ。



彼女が石のようにベッドに倒れこんで、俺は何事かと覗き込み、
彼女の深い深いため息にビクッとして、
彼女の顔を隠していたブランケットを取っ払った。



笑ってるように見えた。



「遅いんですよ、ばか」



可愛い奥さん。

伸ばした腕は自然と背中。
胸にある温度をぎゅっと押しつぶし、
いちゃいちゃして過ごす金曜の夜。









+








nine,プラチナ



「奥さんいるくせに、」



よくやりますよねぇ。と、結崎を名乗る女は、皮肉に言った。



「秘密にしてくれよ。殺されてしまうから、」



髪を撫でる手は不快以外のなんでもない。



「殺されちゃえばいいのに」

「酷いな」



唇を触る手には、殺意、すら。

覚えた。



「可哀相な人ですよ、あなたは」

「知ってるよ。けど君も同じくらい愚かだ」



そうだろ?

何、同意を求めてるの。



手を、捻った。



「………君、本当は私のことすんごい嫌いだろう」

「すきすきだいすきー、あいしてますよー」



にこり。

奪われてはならない。

渡すべくして渡すのは彼にのみだ。



「でも、触らないでくださいね」



心も、勿論体だってね?









+









ten,らびっしゅ



「ただい、ま」



帰宅したら、びっくりした。

床に転がってる奥さん(シャツまみれ。)



「…………ふむ」



洗濯物を畳んでる最中に昼寝した、と見える。



屈みこんで、覗き込んで、
ちゅ、と、何故かキスしたり。



どうしよう。

運べばいいのか、起こせばいいのか、襲えばいいのか。



そりゃ、



襲えばいい、が正解だよな。



「いただきます」



シャツの散乱する中へ。








+








eleven,叫ぶ夜



情けない弱音ばかりを、吐いて。





「言いたいことはそれだけですか?」





くる、と思った、何かはわからない。































瞬きをしたら抱きしめられてた。





「っ、え、」



戸惑って、躊躇って、
そうしてる内に上から声が降ってきて、

















「大丈夫ですよ」

















重力が消えたんじゃないかと思った。














枷なら彼女が取っ払った、鎖は彼女が引きちぎった。





そろりと背に腕を回して、ぎゅっと抱き返して、
肩に額を押し付けて、それで、
出来る限り声を押し殺して、




























泣いてみた。



























本当に情けない嗚咽が真っ白な病室に響いて、
高い天井に吸い込まれていく。














そして暫くして、何事もなかったかのように顔を上げた。
しかし彼女が優しく笑ったので恥ずかしくなって顔を
直視することが出来なかった。










「あなたが鬱陶しいことばかり言うから、抱きしめちゃいましたよ」












それで俺の世界はまかり通る。